説教要旨「思わぬ神助(しんじょ)」 エステル記 4章13節-16節 協力牧師 瀬戸毅義
エステルは貧しいけれども美しく賢いユダヤの一女性でした。神の摂理で、ユダヤ人であることを隠してペルシャの国の王妃になりました。その後にユダヤ人絶滅の陰謀がペルシャの王宮で立てられました。エステルは死を覚悟しつつ、王に事の真実を述べ、ユダヤ人は滅亡から救われたのです。次の言葉はエステルの有名な言葉です。「わたしのために断食してください。わたしとわたしの侍女たちも同様に断食しましょう。そしてわたしは法律にそむくことですが王のもとへ行きます。わたしがもし死なねばならないのなら、死にます」(4:16)。神を信じているからこそ出てくる言葉です。
エステル記は旧約聖書の一書ですが、「神」「ヤーウエ」(エホバ)という言葉は全くありません。それにもかかわらず、神の確かな存在と導きを言外に教えています。例えば「その夜、王は眠ることができなかったので、命じて日々の事をしるした記録の書を持ってこさせ、王の前で読ませた…」とあります(6章1節)。モルデカイが報われ、ハマンの失脚につながる重要な箇所です。「神」という言葉はないのですが、言外に神の導きを思わざるをえません。4章14節を読んでごらんなさい。「あなたがもし、このような時に黙っているならば、ほかの所から、助けと救がユダヤ人のために起るでしょう。しかし、あなたとあなたの父の家とは滅びるでしょう。あなたがこの国に迎えられたのは、このような時のためでなかったとだれが知りましょう」。モルデカイは、自己の民族に対して「見えざる手」が働くとの強い確信をいだいていたのです―神という言葉はありませんが―。彼にはアブラハム以来ずっとユダヤ民族を導いてくださった神への深い信頼がありました。
宗教改革者のルターは「卓話」の中で「私はこの書物が無かったらよかったと願うほど、この書に対して反発を感ずる。なぜなら、それはあまりにユダヤ的であり、あまりに異教的な醜悪さをもっているから」と述べています。しかし全く反対の評価をユダヤ人はしました。紀元300年頃の人Rabbi Simeon Ben-Lakishは、本書はモーセの律法に次ぐ価値を持つものだといいました。また12世紀の人Maimonidesは正典中の「預言者」(ネビィーム)や「聖き書冊」(ケースビーム)は、メシアの来る時にすたるだろうが、「律法」(トーラー)とエステル書だけは永遠にのこるといいます(渡辺善太『旧約書の文学』)。
このように議論の多い書物ですが、確かに神がおられて導いて下さることを言外に伝えています。東洋的独裁君主であったアハシュエロス王の愚かな裏面も鮮やかに描写しています。
エステル記は神を知らない異教の宮廷のお話です。神の御手はその場所に届いていました。
危険と隣り合わせの状況にも、周囲の醜い争いや混乱の中にも、神は救いの御業を成し遂げてくださいます。神は昔も今も私たちと共におられます。
◇イエス・キリストの言葉◇
「あなたがたは、この世ではなやみがある。しかし、勇気を出しなさい。わたしはすでに世に勝っている」。(ヨハネによる福音書 16章33節)
◇あらすじ◇
1章…旧王妃ワシテ退けられる。2章…新王妃エステル上げられる。3章~7章…佞臣ハマン失脚する。8章~10章…忠臣モルデカイ上げられる。
◇著作年代。プリム祭との関係◇
歴史小説のかたちで、前125年頃書かれました。ユダヤ教の祭日にプリム祭があります。ユダヤ暦のアダル月(太陽暦の2月から3月)の14日と15日に祝います。この日にシナゴーグに集まり、エステル記の朗読を聞きます。また、ユダヤ人の絶滅を企んだペルシアの高官ハマンをののしり、ハマンの奸計からユダヤ人を救ったエステルとその養父モルデカイをたたえるのだそうです。祭の名称プリムは、ハマンが投げたくじ(アッカド語でプル)に由来しています。
―エステル記 続き―
◇聖書66巻、全部神の言葉
聖書は好き嫌いなく満遍に読まなければなりません。聖書66巻全部が神の言葉だからです。エステル記が聖書に加えられたのは何故でしょう。
◇モルデカイの励まし
「あなたがもし、このような時に黙っているならば、ほかの所から、助けと救がユダヤ人のために起るでしょう。しかし、あなたとあなたの父の家とは滅びるでしょう。あなたがこの国に迎えられたのは、このような時のためでなかったとだれが知りましょう」(4:14)。「ほかの所」この言葉はモルデカイの固い信仰を示しています。エステルが異国で王妃になったのは神の摂理であり大任を果たすためでした。
◇エステルの決意
「あなたは行ってスサにいるすべてのユダヤ人を集め、わたしのために断食してください。三日のあいだ夜も昼も食い飲みしてはなりません。わたしとわたしの侍女たちも同様に断食しましょう。そしてわたしは法律にそむくことですが王のもとへ行きます。わたしがもし死なねばならないのなら、死にます」。エステル記4:16(口語訳)
“Go, assemble all the Jews to be found in Shushan, and have them fast for me, neither eating nor drinking for three days, night and day; also I and the girls attending me will fast the same way. Then I will go in to the king, which is against the law; and if I perish, I perish.” Esther 4:16(The Complete Jewish Bible)
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烈婦以士帖 烈婦(れつぷ)以士帖(エステル)
祖國存亡危急時 祖国(そこく)の存亡(そんぼう) 危急(ききゅう)の時(とき)
吾随天意更無私 吾(われ)は天意(てんい)に随(したが)い 更(さら)に私(わたくし)無(な)し
令今身滅又何恨 令(たと)い今(いま)身(み)は滅(ほろ)ぶとも 又(また)何(なん)ぞ恨(うら)まんや
清麗王妃血涙詞 清(せい)麗(れい)の王妃(おうひ)に 血涙(けつるい)の詞(ことば)あり
(2017年5月28日 瀬戸)