【聖書箇所朗読】
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2018年4月8日説教 詩編63篇1-4節、ペテロの第1の手紙1章1-3節
「恵みと慈しみが与えられた」
大野惠正
「一番大切なのは命だ」と言います。でも現実にはそうなっていません。自殺が多い。生きる喜びを失っている人々が大勢いる。それで何が命だと感じている人が沢山います。
今日は詩編63篇4節の言葉を味わいます。「あなたの慈しみは命に勝る恵み、私の唇はあなたをほめたたえる」(新共同訳)という一節です。ここには、私たちの常識を超える驚くべき事が書かれています。「命は大事なもの」。詩人だってもちろんそう思っています。しかし、その命よりももっと良いものがある。それは「あなたの慈しみです」と作者は歌う。自分はあなたの慈しみに触れています、それで讃美を歌うのですと、彼は叫ぶ。
実際、神の慈しみに触れますと、讃美に生きざるを得ない喜びが命に満ちてくるのです。今日の聖句のヘブライ語聖書の原文はこうです。
כִּי־ט֣וֹב חַ֭סְדְּךָ מֵֽחַיִּ֗ים שְׂפָתַ֥י יְשַׁבְּחֽוּנְךָ
キー トヴ ハスデハー メハイーム セファタイ イェシェベフネハー
語順に日本語当てはめると、「まことに良いです あなたの慈しみは、命よりも。わたしの唇はあなたをほめたたえます」となります。
חַ֭סְדְּךָ ハスデハーが「あなたの慈しみ」を表す言葉です。これはヘセドという名詞にハーという二人称単数語尾がついた形です。ヘセドという言葉は旧約聖書に252回用いられていて神さまの御性格を表す言葉です。新約聖書では同じことをギリシャ語でeλeοsエレオスという言葉で表しており、それを体現したのが、イエス・キリストに他ならないと語っています。Ⅰペテロ1章1-3節も、神は「恵みと慈しみに満ちた方」と語って止みません。それが「いのちにまさるもの」「命よりも良いもの」だからです。それが人間の命を包んでいるのです。聖書はなぜ命は大切なのかを語っています。それは私のこの命があなたの慈しみ、つまり神さまの慈しみに支えられ、守られ、包まれているからだ、というのです。
星野富弘さんは「命が一番大切だと思っていた頃、生きるのが苦しかった。命よりも大切なものがあると知った日、生きているのが、嬉しかった」とうたっています。 神の慈しみに浸されて生きることは、生の豊かさに満たしてくれます。この命の喜びを知ってこそ、「大切なのは命だ」と言えます。神さまに感謝しましょう。「主の慈しみは永遠です」。