Short Message 31
新約聖書のローマの信徒に宛てた手紙の書き出しに、パウロは「キリスト・イエスの僕、福音のために選び別たれ、召されて使徒となったパウロ」と自己紹介しています。「福音」の原語は「ユーアンゲリオン」です。喜びの音信、歓喜の伝達です。自分を悩まし続けてきた自分に宿る悪への傾き、誘惑に負けて神を悲しませてしまう弱い自分、そんな自分が神の憐れみにより、イエス・キリストのお陰で罪赦された感謝、喜びと平安の体験。それはあなたにも可能だとパウロは語ります。
2010年に南米チリ北部の炭鉱で生じた落盤事故により、地下700mに閉じ込められてしまった33人の生存が危ぶまれていたのですが、全員無事であることが分かった時、国中に歓喜の声が上がり、家族、友人たちは肩を抱き合って喜び、オリンピックの勝利のように国家が歌われたと報道されました。イエス・キリストの福音とは本来そのような喜びのニュースなのです。その喜びを知った春江さんの話をします。
春江さんは大変気の毒な境遇に生きていました。両親は早く亡くなり、お爺さんと弟の三人暮らしでした。耳は難聴で、片方の手足は硬直して曲がらず、痛みにより日夜苦しみました。物質的にも恵まれない貧しい日々を送っていたのです。 春江さんが16歳の時に書いた詩が残っています。
雨がしょぼしょぼ降る夜に 一人思いをめぐらせば
過ぎこしかたの悲しさよ また行く末を思いなば
心細さのきわみなり 心を語る人も無く
ああ 淋しさのきわみかな
過去は苦痛の連続、将来に希望の光が見えない心細さ、自分を理解して、苦しみを聴いてくれる友も無く、心は淋しさで一杯だと、見事に心の内を表現しています。
そんな春江さんの所に牧師さんが訪ねてきて、イエス・キリストの愛を語りました。何回か聴いて、春江さんは自分の悩み、悲しみ、苦しみを訴え、語りかけ、その全てを聴いて、理解してくださるキリスト、友なるイエス様を信じたのです。すると春江さんの心に大きな救いの喜びが溢れてきたのです。そして、その喜びは毎日消えることは無かったのです。その時に書いた短い詩は
喜びに満ちし わが魂 天がけり
身は地にてありと知らで暮らしぬ
でありました。イエス・キリストを信じて、将来の全てを委ねることができた時、心細さと寂しさが消え去り、魂が天にも昇る喜びで一杯になり、体が地上にあることを忘れるほどだったと詩に表現しているのです。
春江さんは自分に与えられた喜びを子供達に語り始めました。小学生が「春ねえちゃん」「春ねえちゃん」と言って遊びに来るようになり、日曜日には聖書の話を聴くために三畳の部屋がいつも一杯なったのです。子供達は成長して大人になっても、教えられた聖書の言葉や「主の祈り」を暗記していて忘れないという話が残っています。春江さんは若くして天に召されましたが、イエス・キリストの救いの力が大きく現われた実例を紹介しました。「信じる者に救いを得させる神の力」は今も、教会の中でキリストの福音を聞き、信じた人々に現われているのです。
この話をキリスト教雑誌で、かなり前に読んで書きとめていたのですが、残念ながら、雑誌名を記憶しておりません。牧師のショート・メッセージとしてお読み下さい。