【聖書箇所】
【説教音声ファイル】
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2018年12月30日説教要旨
聖書箇所 列王紀上17章1節~7節
烏(からす)とエリヤ
瀬戸 毅義
今朝の聖書のテキストは預言者のエリヤが、危険の中にあるときに、神が送ってくださった烏により、食料をいただいたというお話です。ここを読むとなんだか子供向けの童話のような奇跡物語であるかのように読み過ごしがちですがそうではありません。当時のことを知る必要があります。
エリヤは紀元前九世紀前半のイスラエルの預言者です。エリヤが北王国イスラエルで活動したのは紀元前875-848でした。時の王はアハブ王で、その治世は紀元前874-853でした。エリヤの活躍の時期と重なります。
絵(陶器):無名の陶芸家、オランダ。
「烏に養われる預言者エリヤ」
(Plaque with the Prophet Elijah Fed by the Ravens、1568年)Rijksmuseum, Amsterdam)
アハブ王は悪政をしたことで有名です(列王上16:31)国民は貧窮の状態です。王に批判的な人物は遠ざけられました。命が取られるかもと怯えました。アハブ王は外国の婦人と結婚しました。当時の風習として外国の婦人を娶る王は、その婦人の宗教も受け入れました。よって、王は妻(王妃)イゼベルのためにバアルの祭壇を築きました。ソロモン王も異教の神を祭るという誤りをしました(列王上11:7)。
結果、風紀は紊乱し、宗教を司る祭司も堕落し正道を踏まない王を諫める者は一人としていませんでした。すると憐れな者は国民であります。貧に喘ぐものが大勢いました。このような状況の中で独りエリヤだけは権力者の王を恐れません。勇気があります。信仰があります。
彼は国中に枕する所がありませんでした。命を狙われました。このように独裁者の王とその一味が横暴を極め、国民は塗炭の苦しみです。このような国が今も世界のどこかにあるのではないかと思います。
エリヤは紀元前九世紀前半のイスラエルの預言者です。大変勇気があり恐れを知らない人でした。にせの預言者四百人を相手に一人で信仰の戦いをして勝利をおさめ、宗教の改革をしました。権力者である王に対し、はっきりとその悪を指摘しました。
さてあるときエリヤに主の言葉が臨みました。アハブ王が余りにも悪い政治をするので、神は旱魃を預言なさいます。エリヤはときの最高権力者アハブ王にはっきりと告げました。「わたしの仕えているイスラエルの神、主は生きておられる。わたしが告げるまで、数年の間露も降りず雨も降らないであろう。」
エリヤは王に告げたあとこわくなりました。それで人里離れたケリトの川のほとりに身を隠し、ひっそりと暮らすことにしました。ここならば王の追手もわからないだろうと思ったからです。けれども、そこは大変淋しいところです。まず困るのは食べ物です。大そう困りました。すると数羽の鳥が毎朝パンと肉を運んできてくれました。また夕方にもパンと肉を運んできました。
神さまは鳥にも深い愛を持っておられます。鳥は旧約聖書では、汚れた鳥として食べることはできませんでした(レビ11:15、申命14:14)。鳥は人の目をつつき出し(箴言30:17)、荒れはてた所に住む(イザヤ34:12)と書かれています。
鳥はこのように旧約聖書では低く見られている鳥です。この鳥でさえも神は、大切な目的のために用いてくださいます。このことも教えていると思います。神の目からごらんになれば、つまらないものはありません。役に立たない者もいません。聖書のお話は私たちに大きな励ましを与えます。
ヘブル語で鳥は「オーレーブ」と言います。ヘブル語の母音を読みかえると「アラビーム」とも読めます。すると「アラブ人」となります。それで、ここの鳥とは、アラブ人のことで、エリヤに感激したアラブ人がこっそりとエリヤにパンと肉を運んできたのだ、と考えることもできます。どちらにしても、このお話は神が私たち一人ひとりのことをよく知っておられること、困っているときはいろいろの機会を通してちゃんと助けてくださることを教えています。神はエリヤのように正義をつらぬく人々をお守りくださいます。貧しいやもめも、お守りくださいます。
列王紀上17章9節以下の記事に基づいた漢詩。
寡妻嗣子涙沾巾
麥粉纔持落魄身
言有捧全諉主汝
天來糧足一家春
寡妻(かさい)と嗣子(しし) 涙(なみだ)巾(きん)を沾(うる)おす
麥(ばく)粉(ふん)纔(わずか)かに持(も)つのみにて 落魄(らくはく)の身(み)なり
言(ことば)有(あり) 全(すべ)てを捧(ささ)げ 汝(なんじ)を主(しゅ)に諉(ゆだ)ねよ
天来(てんらい)の糧(かて) 足(た)りて一家(いっか) 春(はる)なり
「立ってシドンに属するザレパテへ行って、そこに住みなさい。わたしはそのところのやもめ女に命じてあなたを養わせよう」。そこで彼は立ってザレパテへ行ったが、町の門に着いたとき、ひとりのやもめ女が、その所でたきぎを拾っていた。彼はその女に声をかけて言った、「器に水を少し持ってきて、わたしに飲ませてください」。彼女が行って、それを持ってこようとした時、彼は彼女を呼んで言った、「手に一口のパンを持ってきてください」。彼女は言った、「あなたの神、主は生きておられます。わたしにはパンはありません。ただ、かめに一握りの粉と、びんに少しの油があるだけです。今わたしはたきぎ二、三本を拾い、うちへ帰って、わたしと子供のためにそれを調理し、それを食べて死のうとしているのです」。
17:13 エリヤは彼女に言った、「恐れるにはおよばない。行って、あなたが言ったとおりにしなさい。しかしまず、それでわたしのために小さいパンを、一つ作って持ってきなさい。その後、あなたと、あなたの子供のために作りなさい。『主が雨を地のおもてに降らす日まで、かめの粉は尽きず、びんの油は絶えない』とイスラエルの神、主が言われるからです」。彼女は行って、エリヤが言ったとおりにした。彼女と彼および彼女の家族は久しく食べた。主がエリヤによって言われた言葉のように、かめの粉は尽きず、びんの油は絶えなかった。(列王紀上 17:9-16 口語訳)