夏目漱石先生流に言うと「吾輩は猫である。名前はまだない」、と言ったところかな。
今年の7月31日、僕ら子猫3兄弟はまだ夜が明けきらない朝早く、段ボールに餌と簡易トイレと共に入れられ、車に乗ってどこかに着いた。連れてきたお姉さんはキョロキョロとあたりを見回し、玄関の前にさっと段ボールを置くと振り返ることもなく、また車に乗って行ってしまった。つまり僕らは捨てられたんだ。無責任だよね。生まれて3週間位経った時のできごとだった。
夏の日差しがだんだん強くなってきて、段ボールの中は暑くてたまらない。「早く外に出してくれないかな」「冷たい水がのみたいな」と僕らは兄弟で話していた。
9時ごろになってやっと人声が聞こえてきた。聞いているとどうも教会という場所だとわかった。教会がどういう所かは知らないけど、僕たちに害を与える人がいるとは思えなかった。
教会の人は段ボールに気付き、中を覗いた。僕ら3兄弟はすっかり怯えていた。それはそうだ、相手が誰か分からないのだから。そして、ダンボールのまま抱えられ部屋の中に入った。そこは牧師室という部屋であった。僕ら3兄弟は外に出されたが、 とても恐ろしくて部屋の角にある机の下奥に逃げ込んだ。そこには僕らを出してくれた牧師さんと2,3人の女の人とがいて、「可愛い!」とか「小さいねぇ」とか言いながら机の下奥から僕らを引き出そうとした。僕らは必死に逃げて今度はテーブルの奥に3兄弟でかたまっていると、とうとう大きな手で掴まれ、そこにいる教会の人たちの視線に晒されることになった。過去に猫を13匹飼ったことがあるYおばさんが、慣れた手つきで僕ら3兄弟の体を次々に触り次のように言った。「3匹とも雄だわ。良い顔してるわね」。長男の僕は「当たり前だよ!」と思った。
ここで僕らのことを自己紹介しておこう。僕らは、猫の先祖であるイリオモテヤマネコの血を受け継ぐ誇り高き「キジトラ猫」なんだ。そんじょそこらの最近流行りの猫とはわけが違うんだぞ。僕らは野性的なところを失っていないので、ネズミを捕まえることなんかへっちゃらなんだ。ただ周りにネズミやモグラがいないので腕前が見せられないのが残念。警戒心も強いが、可愛がってくれる飼い主さんなら心を許してしまうんだ。でも3兄弟でも人間と同じで随分と性格は違うよ。長男の僕は、警戒心が強くてやんちゃなタイプといったところかな。誰にでも簡単には心は開かないよ。でも安心できる飼い主さんと分かったら、それはもうべったりの甘えん坊になっちゃうよ。次男と三男はよく似た性格で、僕と違って人間が大好きな愛嬌たっぷりで何にでも興味を持つタイプなんだ。
とりあえず僕らは牧師さんのお家で住むことになった。牧師さんは、動物も人間と同じように神様の被造物と信じているから、僕らを大事にしてくれて安心だ。牧師さんは直ぐに僕らの健康診断の為に、近くの動物病院に連れて行ってくれた。
ノミ駆除が為され、目やに・くしゃみ症状も直った。その後、検便により原虫類(コクシジューム)が見つかり、おととい2度目の投薬を終えたところだ。獣医さんによると1週間後に検便を行い確認するが、ほぼ駆除されているだろうとのことだった。後はワクチンを受ける予定なので大安心だ。最初の検診時約400gだった体重が今はもう1,200g、心身共に順調に成長しているよ。そうそう、三男は教会の人に引き取られ、僕らと同じように大事に育てられているよ。名前は「ゴローちゃん」だって。誇り高いキジトラ猫に相応しい名前で良かった。でもぼくらは「名前はまだない」。
また近況を知らせるから待っててね。