2017.5.14 説教要旨 『貧乏籤の人』 創世記 45章1節~9節 協力牧師 瀬戸 毅義
創世記は全部で50章あります。ヨセフ伝は37章~50章までです(38章、49章を除きます)。ヨセフ伝は一つの物語・小説(novella)ですが中心人物はヨセフです。物語の資料はJ典とE典です。主人公ヨセフは、おそらくエジプトのゴシェンの地に定住したイスラエルを指導した実在の人物であろうといわれます。核心となる史実がなければ、後世のイスラエル思想に力強い影響を与えた伝説を説明することは出来ないのです。物語には作者の加えた潤色もあるでしょう。聖書は全部神の言葉ですから、聖書が私たちに今語ろうとすることを読み取ることが大切です。ヨセフの家庭は複雑でありました。父のヤコブには二人の妻、レアとラケルがおりました。また二人の妻にはつかえめが一人づつおりました[1]。ヨセフはラケルの最初の子でありました。ラケルは旅の途中、難産の末ベニヤミンを産みましたが亡くなりました。ヨセフには腹違いの兄弟が10人おりましたが、実の母から生まれた兄弟は弟のベニヤミンただ一人でした。父のヤコブはヨセフを他の子の誰よりも大切にしました。
ヨセフが年寄り子でしたので、父はかわいがり裾の長い晴れ着を作ってやりました。兄たちは腹が立ってヨセフを憎み、穏やかに話すこともできませんでした[2]。ヨセフは見た夢そのままを父や兄たちに自慢げに話しました。「畑で束を結わえていると、ぼくの束が起き上がり、兄さんたちの束が回りに集まってきて、ぼくにお辞儀をしたぜ」。兄たちは怒りました。「なに、お前が俺たちの王になるというのか。ばからしい」。ヨセフはまた別の夢のことを話しました。「僕はまた夢を見たぞ。太陽と月と11の星が僕にひれ伏したよ」父はヨセフを叱りました。「一体何のことだ?お前が見たその夢は。わたしも母さんも兄たちも、お前の前に行って、地面にひれ伏すというのか」・・・実のところヨセフの母はすでにいなかったのです。兄たちはヨセフに立腹しました。しかし父は夢の話を忘れませんでした。
兄弟たちはヨセフを「夢見る者[3]」との綽名をつけて蔑みました。終に兄弟たちはヨセフをエジプトに売り飛ばしました。ヨセフは主人の妻の誣告(ぶこく)により獄に入りました。しかし主はヨセフと共におられました。監守長は監獄にいる囚人を皆ヨセフの手にゆだねました。主がヨセフと共におられたからです。
2年の後ファラオは不思議な夢を見ました[4]。誰も解けないその夢をヨセフは解きました。
ヨセフは苦難の中にも絶えず「神の臨在」を知りました(39:2、21、23など)。彼はどんな境遇にあっても主にすがり自分の苦い経験を解釈することを学んだのです。その結果、摂理の神を深く味わうようになったのでした。「わたしはあなたたちがエジプトへ売った弟のヨセフです。命を救うために、神がわたしをあなたたちより先にお遣わしになったのです。神がわたしをあなたたちより先にお遣わしになったのは、この国にあなたたちの残りの者を与え、あなたたちを生き永らえさせて、大いなる救いに至らせるためです。わたしをここへ遣わしたのは、あなたたちではなく神です[5]」。聖書が私たちに言いたいことこの言葉です。貧乏籤をもらっただけの人生のように見えましたが違いました。凡ては深い神のご計画です。
[1] 創世記 ヤコブの結婚 29:16-30:24。ヤコブの子供 創世記 35:23-26。
[2] 創世記 37:1-11
[3] 創世記37:19 明治訳[元訳]「作夢者」となっています。
[4] 創世記 41:1-36
[5] 創世記 45:4-8