【聖書箇所】
【説教音声ファイル】
2019年4月14日
聖書箇所 ルカによる福音書 7章 36節~50節
マグダラのマリア―彼女を強くさせたもの
瀬戸 毅義
このシモンという人は、イエスを食事に招いたほどですから、パリサイ人の中ではイエスに好意を寄せていたのでしょう。イエスには少しも宗派などのこだわりはありませんでしたから招きをうけました。ここに一人の罪の女が登場します。罪の呵責でしょうか、泣きつつイエスの足に口づけし、高価な香油を塗りました。シモンをはじめ周りの人たちはどれほどびっくりしたことでしょう。
この女性の素性もわからないようなイエスは、真の預言者ではない。偽のそれではないかと思いました。イエスは金貸しからお金を借りた二人の人のたとえ話をしました。一人は500デナリ、一人は50デナリでした。当時まる一日分の給料が1デナリでしたから、現在なら500万円と50万円位でしょうか。二人は返すことができませんでしたが、金貸しは二人の借金を帳消しにしました。
二人のうち、どちらがより感謝するだろうか?と、シモンは尋ねられました。このたとえ話の後、イエスは女に「あなたの信仰があなたを救った。安心して行きなさい」と言われました。
8章2節のマグダラと呼ばれるマリヤ(口語訳/新共同訳マリア)は、聖書のこのお話の女性だったのでしょうか。いいえ、違うと思います。たとえば、The New Oxford Annotated BibleではThere is no evidence to identify her with the woman in 7:36-50とあり、他にもKnow the Word Study Bibleには、Because she is introduced here{8:1-3 },it is unlikely that she is the sinful woman of 7:36-50と記されています。
聖書にはマグダラのマリヤが娼婦であったとの記録はなく、7つの悪霊とは恐らく身体的・精神的な疾患であったのでしょうか。マグダラのマリヤはキリストに出会い、その人生は大きく変わるのです。彼女は自分の持ち物を提供し奉仕しました。ガリラヤからイエスに従い世話をしました。イエスの死を見届け、埋葬のために香料・香油を用意しました。埋葬後も墓前に残りました。さらに「週の初めの日に、朝早くまだ暗いうちに」、彼女は墓に行き(ヨハネ20:1)、キリストの復活の証人となりました。このような積極的な行動は、以前の彼女ならば思いもしなかったことでした。女性の強さを感じます。男性の弟子は逃げたり、隠れたりしていたのですから。マグダラのマリヤは違います。キリストの復活の証人となりました。かくも大きな彼女の変化のそもそもの始まりはイエスとの出会いでした。
法然上人と遊女の話
ひとりイエスのみならず偉大なる宗教家にして醜業婦(ママ)と遭遇するの経験を有せざる者は少ない。ことに我国浄土宗において好んで伝えらるる法然上人の逸話の如きは最も美わしき事例の一である。上人讃岐に流さるるの途次(道すがら)幡州室(むろ)の泊(とまり)を過(よ)ぎる。時に一遊女舟に乗りて来り、上人に問うに自己のごとき罪障深重の者もまた救わるべきかをもってす。上人ここにおいて諄々と、いかなる罪人も念仏して弥陀に頼らば必ず救わるべきを教え、もし今日いまだその醜業を放棄する程の信仰起こらずばしばらくその業を継続するもなお可なり、唯一意弥陀を頼むべきむねをさとしたのである。人なる法然上入にありてはもとよりみずからその罪をゆるすを得ざりしといえども、罪人に対する弥陀の態度を伝うるにおいては遺憾なしと言わざるを得ない。(1917/大正6年1月『聖書の研究』。原文のままではありません。)