【聖書箇所朗読】
【説教音声ファイル】
2021年7月18日説教要旨
聖書箇所 マタイ5:38-42
左の頬を向け、三本の指を立てる
須藤伊知郎
「しかし、私は言っておく。悪人に手向かってはならない。誰かがあなたの右の頰を打つなら、左の頰をも向けなさい。」
(マタイ5:39)
この「悪人」とは誰のことでしょうか。41節がヒントになります。「あなたを徴用して一ミリオン行けと命じる者がいれば、一緒に二ミリオン行きなさい。」
「徴用」とは、ローマ帝国の兵士が、植民地支配していたユダヤの民衆に「ちょっと来い。この荷物を一ミリオン=千歩の距離運べ。」と言って、仕事をさせることを指します。ですから、この「悪人」はおそらくローマ兵士で、これがユダヤの民衆の右の頬を打つのです。「右の頬を打つ」のは、固い手の甲で打って奴隷や家畜をこき使う時のやり方で、大変な侮辱でした。
その時、イエスは「手向かってはならない。」暴力に対して、暴力で向かってはならない、と言います。「手向かう」と訳されている言葉は、旧約聖書をギリシア語に訳した七十人訳で「武器を取って闘う」意味で使われることが多いです。つまり、「ローマの兵士に対して武器を取って闘ってはならない」。
そして、イエスはさらに「左の頬をも向けなさい」と言います。やられっ放しになりそうですが、これが当時の民衆にとっては、唯一の現実的な道でした。剣を持っている屈強なローマの兵士に対して暴力で立ち向かうならば、その場でボコボコにされ、下手をすると斬り殺されてしまうかもしれません。そうではなく、「左の頬をも向ける」。
これは、もう一つ打ってしまうと、ローマ兵が困ったことになったからだと考えられます(ウォルター・ウィンク)。というのは、植民地におけるローマ兵の横暴が目に余るため、それを罰する法令が作られた証拠が残っているのです。それで、1回打つのはいいけれども、2回打つとやりすぎで、ローマ兵が何らかの罰を受けることになっていた、と考えられます。
イエスは徹底した非暴力の抵抗で、平和を作る実践的な方法を教えてくれたのです。