【聖書箇所朗読】
【説教音声ファイル】
2021年4月18日説教要旨
コリント第1 15:1-2、17
キリストの復活
瀬戸 毅義
世界に多くの宗教がありますが、死者のよみがえり・復活を明言する宗教は聞いたことがありません。昔、パウロがアテネで伝道したとき「死人のよみがえりのことを聞くと、ある人はあざ笑い、またある者たちは、『この事については、いずれまた聞くことにする』と言いました。しかし、パウロの宣教を信じた人も、幾人かいました(行伝17:32、34)。このように、死人のよみがえりの教えは、昔から人々に無視されました。愚かな空言(クウゲン・そらごと)とされました。本当はキリストの死からのよみがえりは、キリスト教の大黒柱です。
聖書はこういいます。
兄弟たちよ。わたしが以前あなたがたに伝えた福音、あなたがたが受けいれ、それによって立ってきたあの福音を、思い起してもらいたい。 もしあなたがたが、いたずらに信じないで、わたしの宣べ伝えたとおりの言葉を固く守っておれば、この福音によって救われるのである(コリント第1 15:1-2)。
もしキリストがよみがえらなかったとすれば、あなたがたの信仰は空虚なものとなり、あなたがたは、いまなお罪の中にいることになろう(同15:17)。
イエス・キリストの復活は、罪の贖いと並び、なくてはならないキリスト教の根幹です。聖書に「死のとげは罪である」とある(コリント第1 15:56)ように、罪が死をもたらしました。イエス・キリストが死から復活されたことは、キリストが死に打ち勝たれたことのあかしです。またキリストが罪を贖われたことの証拠です。キリストの罪の贖いを信じて生きる者は、同様に復活の命を与えらます。これが聖書の教えです。復活を抜きにしたキリスト教の信仰はありえないのです。
明治19(1886)年のことです。26才の内村鑑三はアメリカのアマースト大学で学んでいました。明治維新からまだ20年も経っていないときです。次のようなことがありました。
余(注:内村鑑三のこと)はかつて一夜、シーリー先生の家を訪(おとな)う。そのとき先生は、ひとり書斎にあり、余を延(ひ)いて、先生と対座せしむ。
先生、壁上に掛かりし一婦人の肖像をさしていわく、「彼女は余の愛する妻なり。5年前に吾人を去れり。今は天国にいて、吾人を待ちつつあり」と。言終わりて、先生の鷲のごとき眼は涙をもってあふれたり。先生の未来を信ぜしは、余が明目の存在を信ずるがごとく確かなりし。余はその時、初めて来世の実在を確かめ得たり。
(教文館「内村鑑三著作全集23」126頁。1899年「東京独立雑誌」)
内村鑑三はこのとき、はじめて来世の確かさを知りました。
孔子とイエス
ある日本の男爵(注1渋沢栄一)がフィラデルフィアのベタニア日曜学校に出席し、通訳を通じてひとこと感想をのべました。
渋沢男爵が、「孔子の教えとイエスの教えとは同じです。ゆえに私は私の信仰を変える必要を感じません」といいました。すると、教会の日曜学校校長のジョン・ワナメーカー氏(注2)は、来賓者(渋沢男爵)からこの言葉を聞いていてびっくり仰天しました。渋沢氏は、数か月前、教育制度視察のために米国を訪れていたのでした。
ワナメーカー氏は人も知るように、米国屈指の実業家ですが、同時にまた老練な日曜学校の指導者です。彼は今自分の学校においてこのような異教の弁護論に接し、やむを得ず立ちあがり、思わず心の思いを口にしました。
ワナメーカー氏はまず孔子の説いた道徳の高いことを認めたあとで、さらに続けました。孔子とイエス・キリストとの間にはこの根本的相違があります。孔子は死んで葬られ、イエス・キリストが彼に起きよと告げたもうまで、墓の中に横たわっています。しかしキリストの墓は空です。キリストは生きておられるのです。彼は今日この所このへやにおられます。それから、ワナメーカー氏は、自分のボケットより小さな聖書を取り出して、深い感動をもってこう付け加えました。
「ここにイエスのことばがあります。これは生けることばです。私たちは生けることばをこの書物の中に読むことができます」といいました。
渋沢氏は米国を去るに先だち、ニューヨークで、ある宴席に出席しました。多数の日曜学校指導者も出席していました。渋沢氏に「アメリカ滞在中、何を最も強く感じましたか」という質問がなされました。日本の儒教信者の渋沢男爵は答えました。「最も深い印象を受けたのは、フィラデルフィアのベタニア日曜学校でのことです。ワナメーカー氏が熱心にキリストの弁証をされて、小さな聖書を取り上げた時、彼が生ける主を慕うのあまり、その頬(ほお)から熱い涙が流れ落ちるのを、私が見たときです」と答えました。(フィラデルフィア市発行「日曜学校タイムズ」の記事、1917/大正16年)
注1 渋沢栄一(1840—1931)初め幕府に仕え、明治維新後、大蔵省に出仕。辞職後、第一国立銀行を経営、製紙・紡績・保険・運輸・鉄道など多くの企業設立に関与。引退後は社会事業・教育に尽力。2024年、新1万円札の肖像画。現在NHK大河ドラマ「晴天を衝け」でその生涯が描かれています。
注2 Wanamaker, John(1838-1922) アメリカの実業家。大百貨店を創立し、商業において近代性と理想主義を結び付けた。郵政大臣にもなる。日曜学校に熱心。建てた日曜学校の一つは生徒4千人を数えた。世界日曜学校の会長、YMCA事業にも活躍した。