【聖書箇所朗読】
【説教音声ファイル】
2022年9月25日説教要旨
聖書箇所 ルカによる福音書8章26~39節
神がなさったこと
梅木 光男
この物語は共観福音書と呼ばれる3つの福音書全部に記されている有名な箇所です。ガリラヤ地方で多くの奇跡やたとえ話など福音宣教の業をなさったイエスが、この物語ではガリラヤ湖東岸ゲラサの地で活動されます。この直前に主イエスの湖上歩行の出来事があり、弟子たちに恐怖と畏怖の気持ちが生じたと聖書は記しています。
今日の箇所では多くの悪霊によって苦しめられている男性と遭遇するところから話が始まります。彼は長い間着物をつけず家に寄り付かず墓場で生活し、鎖と足枷に繋がれて監視されていたが、今やそれも断ち切って荒野に追いやられていた状況でした。まさに人間を人間たらしめる条件が侵害され脅しと人格破壊という惨めな状態にあったのです。その時主イエスの姿を見つけると彼は走り寄ってひれ伏し「構わないでくれ」と懇願するのです。ここにこの男の矛盾する感情が垣間見られます。
それは
①私の辛さを分かってください という思いと
②私の辛さが分かってたまるか という鬱積した気持ちです。ここに男の揺れ動く対立した感情が窺えます。いままで経験してきた人々の対応や自分自身の境遇、誰からも無視され絶望の中で、それでも一筋の希望?を抱いて生きてきた男の感情そのものです。
一方悪霊がイエスに対して「いと高き神の子」と告白していることは注目すべきことです。「レギオン」これはローマの軍隊の最大単位で、6000人で構成される軍団です。多数をイメージするもので、多数の悪霊が主イエスの本質を的確に見抜き表現していると言えます。悪霊たちは永遠の刑罰である「底しれぬ所」に送られるよりも豚に入ることを主イエスに懇願しました。しかし、多くの悪霊が入ったため豚は驚いて自制心を失い崖から湖に落ちて死んでしまったと記されています。
この2つの出来事に対してゲラサの人々は驚きと恐れを抱きます。そして主イエスにこのゲラサの地から出て行ってもらいたいと懇願するのです。
それは
①イエスという巡回霊能者に対する恐れ
②豚の死亡という財産の損失 が自分たちとの利害対立となるという理由です。
まさにガリラヤ湖の西岸の人々とは正反対の対応です。神の栄光への賞賛や一人の人間回復よりも自分自身の財産や立場を重視した結果なのです。
一方、救いの業で癒されたこの男は弟子として同行することは叶わなかったが、証人としての福音宣教の業を促され喜びと神の栄光を人々に伝えて行ったのです。