【聖書箇所朗読】
【説教音声ファイル】
2022年12月11日説教要旨
聖書箇所 ルカによる福音書21章25節~33節
やって来る人
ヨッヘン・クレッパーとアドヴェントの讃美
片山 寛
ドイツの讃美歌作家ヨッヘン・クレッパー1903-42の生涯を振り返ると、しだいに暗くなってゆく時代の中で、彼が勇気をふるい起して、常にその向こうの朝を夢見ていた人であることを思わされます。クレッパーはシュレジエン地方の牧師の子どもに生まれ、神学校にも行ったのですが、健康上の理由で進路を転換し、ジャーナリストになる道を選びます。ベルリン放送(ラジオ)に職を得るのですが、1933年にヒトラーがドイツの首相となると、クレッパーがかつてSPD(社会民主党)の党員であったのをとがめられて解雇されます。放送関係の雑誌社に勤めながら文学活動を続けるのですが、小説『父』が評判になると間もなく、今度はドイツ著作家連盟から追放されて、これ以上作品を発表するのが不可能になります。歌うたいが声を奪われるように、彼は表現手段を次々に奪われていくのです。しかし彼はこの時期、数々の美しい讃美歌を書いています。その中のひとつは、新生讃美歌560番にも採用されていますが、ドイツ語を直訳すると、こんな歌です。
夜は深まった、朝は遠くない。
だから今、明けの明星に向かって讃美を歌おう。
夜じゅう泣いた者も、喜ばしく声を合せよう。
明けの明星はあなたの不安や痛みをも照らしてくれる。
クレッパーの讃美歌は、神さまはこの地上の暗闇にも来てくださる、いやこの暗闇の中にこそ来てくださるのだ、という強い信頼と信仰を歌ったものが多いのです。アドヴェント、つまりキリストの降誕を待つ教会の讃美歌を沢山書きました。そこで彼は、「アドヴェントの詩人」と呼ばれることがあります。
クレッパーの妻ハンニはユダヤ人でしたので、妻と二人の娘に強制収容所送りの危険が迫ります。ハンニは1938年の12月に洗礼を受けてキリスト教徒となるのですが、それでユダヤ人迫害を免れることはできませんでした。第二次世界大戦が勃発(1939年9月)する少し前に、クレッパーは長女のブリギッテをイギリスに亡命させることに成功します。次女のレナーテはまだ子どもでしたので両親のもとに残ったのですが、間もなく戦争が始まったので、状況は絶望的になりました。妻ハンニと強制的に離婚させられ、ハンニとレナーテが強制収容所に送られるという運命が決まったとき、クレッパーは妻と娘と一緒に3人でガス栓を開いて自殺をします。それは1942年のアドヴェント、12月10日の夜のことでした。
それは悲しい最期でしたが、不思議なことにクレッパーの歌声は、声を奪われることでますます強く天地に響きわたったように思えるのです。クリスマスの夜に、ベツレヘムの野原で天使たちが歌った時のように、この世界が暗ければ暗いほど、天使の歌は明るく響きわたるのです。