生れて3ヶ月、このお家での生活も2ヶ月になった。僕は伊達や酔狂でこの家に居候しているわけではない。このお家を離れたくない僕は僕なりに考えたんだ。どうしたらこのお家で、僕のお母さんの代わりをしてくれている牧師さん夫婦と一緒に住み続けられるのかを。夜も寝ずに考えたよ。と言っても僕は夜行性だから特別に夜寝ずに考えたというわけではないよ。
最初に考えたことは、僕しか出来なくて、このお家に役立つことは何だろうということだった。僕はネズミを捕まえることは得意だけど、このお家にはネズミはおろかゴキブリ一匹いないのでどうしょうもない。そうこう考えていたら、小さな黒い動くものが壁を這っているのが目に入ってきた。注意深く見ているとそれは1㎝位の家蜘蛛だった。僕は咄嗟に考えた。これを退治すると牧師さん夫婦は喜んでくれるかも知れない。僕は壁から床に下りてきた家蜘蛛を難なく捕まえることが出来た。舐めて見ると食べれそうだったので食べたらまあまあの味だった。これは一石二鳥かもしれない! でも後で牧師さんから言われたんだ。蜘蛛は益虫だから殺したら駄目だって。
次に真剣に考えて閃いたことがある。仮に誰かが僕を引き取りにきたとする。その時に捕まらなければ良いんだ! それからというもの、僕はいざという時に備えての逃げ場所を探すことにした。特に日曜日は牧師さん夫婦は教会に行っていないので、お家の隅々まで探索することにした。1階は僕が牧師さんと一緒に一日の大半を過ごす6畳の広さの書斎があって、ここだけでも何カ所かの隠れ場所がある。最初は牧師さん自慢の机の下や書棚の本の間に隠れたこともあったが、大分体も大きくなったのでそこに隠れるのは直ぐに見つけ出されて無理だということが分かった。でも、この部屋には1間の押し入れと天袋、東側には1間の地袋があって、ここは絶好の隠れ場なんだ。だけど、引き違いの襖が少し空いていないと入れないのが難点だよ。
1階にはもう一箇所見つかり難いところがあるんだ。そこは階段下の物入れで、色んな道具や生活用品が収納されており、一旦この奥に逃げ込み、隠れて息をひそめているとちっとやそっとでは見つからない自信があるんだ。先々週の日曜日、牧師さん夫婦が教会から帰ってきたときに、僕は試してみたんだ。この物入れの一番奥に入り込み、物音をさせないようにじっとして隠れていた。牧師さんは、「チビちゃーん」とか「イチロー」とか呼びながらあちこち探していたが、とうとう僕を探しだす事が出来なかった。牧師さんは探すのを諦めて「あいつは隠れの名人だ」とか言ってソファーに腰を下ろした。その時の僕の本音は、直ぐにとんでいって抱きしめられたいのは山々だけど、ここは将来の為に冷静に対処したんだ。僕はしばらく潜んだ後、見つからないようにそこからそっと出て何気ない素振りで牧師さんの側に行った。牧師さんは「君はどこにいたの?」と言って僕を抱き上げ、愛情たっぷりに撫でてくれた。
そうそうこの家に来てちょうど二ヵ月目の今日(9月30日)うおずみ動物病院に診察に行ったよ。もう5~6回位になるので少し慣れてきたけど、何となく病院はいやだな。でも検便の結果もクリアーしたし、血液検査結果も問題なし、体重も1980グラムまで成長したよ。順調だと獣医さんのお墨付きをもらったよ。そしてワクチンも打ってもらったし大安心だ。お父さん、お母さん、ありがとう。ではまた2週間後に。